今回は、私のクライアントから質問が実際にあった事例をご紹介します。テーマは「毎月の返済額を減らすために繰り上げ返済を行うかどうか」についてです。
クライアントからの質問があった背景は下記のとおりです。
〇今期決算は赤字転落になりそう(前期は黒字)
〇債務超過ではあるが資本性ローンを考慮すると純資産は「プラス」
〇資本性ローンを借入として加味した場合の借入依存度は「90%」で借入過多の状態
〇毎月の返済額を減らしたいので役員保険用の生命保険を解約して一部返済を行いたい
〇返済をした分は、3か月後にメインバンクから短期コロガシで借入をしたい
将来の退職金のために生命保険金を積み立てるのは多くの会社がやっています。ただし、毎月の生命保険の掛け金が「損金」(今は節税用の保険は少ないですが)になり、さらに営業利益が赤字に転落するのは本末転倒です。
将来の退職金の前に、目の前の資金調達に支障が出ては意味がありません。そこで、資金繰りのためにも生命保険を解約するのは経営としては「英断」だと思います。
ただし、解約金を借入の繰り上げ返済に使うのはおかしいと思います。既に借りている資金を繰り上げて毎月の返済額を減らしたい考えは理解できますが、ポイントはその後少なくとも1年間で新たな資金調達で出来るのかどうかを判断する必要があります。
さらにそもそもとして一度借りた資金を繰り上げ返済すること事態も、私としては反対です。(手元資金がそれこそ6か月以上の運転資金をもっていれば話は別ですが)
本ケースの場合、生命保険解約金で繰り上げ返済を行い、その数か月後に「短期コロガシ(返済がない)」にて資金調達をする資金繰りを組んでいました。
大事なのは下記の点を見落としていることです。
〇今期は営業利益が赤字で資本性ローンあるものの、借入過多である
〇「短期コロガシ」は正常先でもまだまだハードルが高い
つまり、クライアントが望んでいる「短期コロガシ」での資金調達の可能性は「低い」ということです。
仮に繰り上げ返済をやるとしたら
〇繰り上げ返済後でも資金繰りは円滑で新たな資金調達がなくでも回る
〇繰り上げ返済後の受注環境が見通せて売上が確保できる
この2点がOKであれば、繰り上げ返済も検討してもいいかもです。
ただ本件では、来期の資金調達の可否が不透明であり、保守的な資金繰りを考えるとなると、生命保険の解約はOkだが繰り上げ返済はNOの判断になります。
返済負担の軽減という目先のメリットだけに捉われずに、多面的な検証の下で資金繰りは考えるべきだと思います。