医療機関向け融資審査の要所(1回目)

今回から4回に分けまして、医療機関向けの「資金調達、融資審査の要所」をテーマにお話をさせて頂きます。私が銀行員時代における融資審査の現場や、今手がけている事業再生、資金調達コンサルでの医療機関向けの融資・事業再生コンサルの経験をお伝えさせて頂きます。
本連載では特に新規開業を検討されている先生方に焦点を当てて、以下の4本のテーマを柱に話を進めます。

  1. 銀行にとって医療機関向け融資の難しさはどこにあるのか
  2. 事業計画書の作成ポイント、説明ポイント
  3. 金融機関の付き合い方、選び方
  4. 開業以降の資金調達の考え方

1回目は「銀行にとっての医療機関向けの融資の難しさはどこにあるのか」をお話しします。

銀行員全てが医療機関向け融資に精通しているのではない

銀行員に「医療機関」向けの融資というのは、あまりなじみがなく、経験値も少ないのが実情です。支店に配属されている融資係や営業担当の職員全てが医療融資に精通しているのではありません。
私は融資審査の本部経験もあったことから、多くの医療機関向けの融資案件に携わりましたが、数多くの経験している行員はまず少ないと思ってください。
民間の金融機関においては、近年、医療機関向けの融資に向けて力を入れだしてきておりますが、審査の担い手になっているのは本部の専門チームで行っているところが多いのが実情です。
まずは、銀行員にとっては医療機関向けの融資案件は難易度が高いと感じている心情を理解しておいたほうがいいでしょう。

医療機関向け融資のどこが難しいのか

一般的には医療機関は介護とともに景気や為替の影響に左右されない安定した成長産業と言われております。医療機関は景気よりも、診療報酬などを筆頭に国の政策に大きく左右されることから、今後の動向が読みやすいようで読みにくい業種とも言えます。また、一般企業においては「売掛金」に相当する診療報酬については、支払基金や国保からの入金であることから、貸倒れが少なく安全性が高い面があります。一方で、多くの設備投資が必要であり、ドクター、看護師の人件費は相応に高く、利益率で考えるとそれほど高くないイメージがあります。
医療機関向けの融資を難しくさせているひとつの要因として国の制度改正が頻繁に起こっていることも挙げられます。ですから、支店の担当者レベルではなかなかノウハウが蓄積しにくく、本部の専門チームを立ち上げなければ対応できないのが実情なのです。

では、具体的に銀行員が難しいと感じている理由のポイントを挙げてみます。実はこのポイントを逆手にとることで、銀行員が難しいと感じる点を丁寧に説明していくことが融資への近道になるのです。

  1. マーケティング
  2. 専門性の理解
  3. 設備の妥当性
  4. 開業医が数字に強いのかどうか
  5. 将来性の見通しが難しい

①マーケティングの難しさ
これは医療業に限ったことではありませんが、一般企業がモノを売ったり買ったりして利益を稼ぐ事業とは違い、患者を相手にしている事業であることから、公共性が非常に高く社会的な貢献度も高い性格を有しています。なので、ビジネスだけの観点に捉われたアドバイスに終始するのが難しいといったイメージがあります。マーケティングにしても、地域の想定患者数、ライバル病院の動向なども医療業専門のコンサル会社からの資料を鵜呑みにせざるを得ない傾向があり、こと収支計算にしては、なかなか銀行本位で進めることが難しい一面があります。

②専門性の理解
銀行員の特性として、業界の知識に「広くは知っているものの、浅くしか知らない」があります。銀行員は多くの業種との接点はあるものの、なかなか一事業に対して深い知識や経験に乏しい傾向があります。ひとつの取引先に対して物理的に時間をかけられないのが理由にあります。特に医療業に関しては、内科、外科、耳鼻科、歯科などなど高い専門性を有した事業であり、先述したように国の政策によって大きく左右されることからも本部にて専門チームを結成して対応しているのが実情なのです。

③設備の妥当性
医療業には多くの設備が必要なのは周知の事実ですが、いったいどのくらいの設備でいくらの設備が妥当かについては専門的な知識を有しておりません。
設備の妥当性を問うのは、自己資金と資金調達額、そして将来の収支計算から逆算した結果です。つまり、「いくら設備投資に回すのが妥当か」を審査しているだけで、この設備があるから患者数の増加が見込めるような考え方はなかなか出来ないということです。設備の中身等に詳しいのは、「福祉医療機構」などの医業向け融資の専門機関ぐらいではないかと思います。
つまり、設備の性能や中身についての妥当性はこちら側から理論武装して金融機関に説明する必要があります。

④開業医が数字に強いかどうか
独立開業される先生方は、一般企業で言えば「社長」に当たります。金融機関の交渉は最終的には「社長」が行わなければならなりません。

私は、病院のクライアントとの接点が多々ありましたが、医業法人クラスになれば、事務長や経理担当者がいるケースもありますが、個人開業医のケースでは先生自身が交渉に当たらなければなりません。とはいっても数字になかなか疎い先生も多いのは当然です。よくあるケースで、先生自身なかなか説明が難しいことから顧問の税理士に説明を丸投げしていることをよく見かけます。確かに、数字の説明はプロからやってもらったほうがいいケースもありますが、最終的には融資を申し込んでいる本人の口から語ってもらう必要があり、金融機関は本人の言葉を待っているのです。
「私は数字に関しては分からなので」の一言で片づけてしまうと、「当事者意識がない」印象を与えてしまうことになり、決して自身にプラスには働かないことを認識してください。

今回は、医療機関融資の要所と題した1回目として金融機関がなぜ医療機関向けの融資を難しいと感じるかについてポイントをお話しさせて頂きました。難しいと感じる点をいかに金融機関に分かりやすく説明してあげるかが融資の近道なりますので、頭に入れておいて頂けたらと思います。次回は事業計画書の作成方法についてお話しします。