医療機関向け融資審査の要所(2回目)

前回から「医療機関向け融資審査の要所」と題して、特に独立開業医向けの融資申し込みのポイントについてお話をさせて頂いております。今回は、融資審査の肝となります「事業計画書」のポイントについてです。
医療開業におけるポイントは大きく分けると「売上予測の手堅さ」「設備投資の妥当性」が柱になります。医療業に限らず、銀行融資審査において最大のポイントとなるのは「返済が可能であるかどうか」です。つまり、手堅く見た収支予測のもとで、決められた期間内に返済が出来るかどうかで審査の可否が決まると言っていいでしょう。

では、事業計画書を作成そして金融機関に説明するにあたってのポイントをまず挙げてみます。

  1. 医業収入予測
  2. 設備投資の判断、将来の追加設備の見通し
  3. 返済原資の確保
  4. 資産負債状況

①医療収入予測
前回の連載においても「マーケティング」の難しさをお話しさせて頂きましたが、まずはどのように患者数の予測を立てるのかが最初の作業になります。
一般的なマーケティング手法として考えられるのは以下のアプローチを辿ります。

1)開業地周辺の人口、年齢別、男女別のセグメント分布
2)開業地周辺の競合機関の分析
3)開業地周辺の将来予測
4)差別化

1)開業地周辺の人口、年齢別、男女別のセグメント分析
これはマーケティングの基礎なので、開業するにあたっては医療系コンサルから十分な資料を得ていると思いますが、この情報をきちんと金融機関に伝えられるかが大切になります。簡単に言えば、開業地周辺の居住者のうち、「誰が、どのようなニーズでその機関を利用することが予測されるのか」を分かりやすく伝えることです。

2)開業地周辺の競合機関の分析
専門分野が同じ医療機関のライバル分析です。ライバルの情報は細かいデータまで入手はできないかもしれませんが、他機関の患者を囲い込むことを前提としてくることから、こちらのデータも必要になります。

3)開業地周辺の将来予測
将来予測とは、現在の人口分布や近隣に大型マンションの建設が見込める、人口の増加や他地域からの移入が見込めるかどうかのデータになります。将来予測はなかなか簡単なものではありませんが、この情報があるかないかで将来の収支予測の根拠ができるはずです。

4)ライバルとの差別化
独立開業に至るということは、これまでの勤務医として多数の患者から支持を得ていることが大きいと思います。また、多くの患者から支持を受けている理由はどこにあるのかを冷静に自己分析してみるといいでしょう。
「診察が丁寧である」「薬の処方に定評がある」などなど、これまでの勤務医としての実績をアピールすることも大切なポイントです

②設備投資の判断、将来の設備投資の見通し

医療業は装置産業※とも呼ばれ、設備負担が重い業種になります。医業収入の見通しと同時に、どれだけの設備投資を行うかが成功のカギとなります。ただ、どのくらいの設備をいくらかけるのが妥当かについては、専門性が高いことから金融機関ではなかなか分からないのが現実です。そこで、必要な設備や機能についても金融機関に丁寧に説明することが必要になります。説明のポイントとしては、何故必要か?この機器があるとどんなメリットがあるかなどを押さえてもらえればいいでしょう。
(※装置産業とは、不動産賃貸業、倉庫業、病院など一般業種と比較して重設備を必要とする業種のことを指します。)

1)賃貸か購入か
開業する医院の場所を定める際に、医療モール等に入るのか?通常のオフィスビルにテナントして入るのか?それとも不動産を購入して自宅兼医院とするかなど様々な選択肢があると思いますが、どれにするかについてはマーケットと資金計画の兼ね合いがあります。自己資金が豊富にある場合には自己所有も検討に値しますが、基本的にはテナントとして開業するケースが多いと思われます。その際には保証金等の初期投資も予算組みしておく必要があります。また、2年ごとに更新料が必要な場合もあり、その資金も収支計画に織り込んでおく必要があります。
2)耐用年数はどのくらいか?将来の追加投資は必要か?
設備の耐用年数は、その年数が設備借入の返済年数に当たることから、年数の把握は事前にしておくことが必要です。(設備の償却年数に合わせて返済期間を定めるからです)
また、将来、設備の老朽化を見込んで、何年後に設備投資が必要なのかを中期計画のなかで、前もって予算組しておく必要があります。実は、この再投資を織り込んでいない計画も多くあります。再投資の際には、新たな資金調達が必要になると思いますが、将来の資金計画として再調達もあることを計画のなかで触れておくほうが現実的であり、金融機関には好印象となると思われます。

③返済原資の確保
金融機関の一番のチェックポイントはここです。要するに返済できるかどうかです。この点については、これまでお話しした①医業収入の見通し ②設備投資の判断で答えは決まってきます。②の設備投資の支出の部分は初期投資がメインになることから、数字が最初から分かりやすいですが、①の収入の見通しをどれだけ固く見れるかがポイントになります。
そこで、当初立てた収入の見通しに対して、90%掛、80%掛、70%掛を行い、収支のストレステストを行ってみてください。そこで当初の予定よりもどのくらい下がってもいいのかの境目を認識しておいて下さい。

④資産負債状況
これは、開業医の先生個人の資産負債についてです。自身の資産は現金、不動産で
どのくらいあるのか?また、住宅ローンやその他の借入は今どのくらいあるのかについても金融機関に開示する必要があります。というのも、個人の住宅ローンを返済する原資は自身の給与にあることから、医業収入が個人借入の返済分もカバーできるのかどうかを判断材料にするのです。
一方、資産背景については、将来医業収入が減少した際に、個人資産の投下が見込めるのか?換金性の高い資産があるのか?あれば、融資判断にはプラスに働きますので、個人情報だから出したくないと渋るのではなく積極的に開示されることをお勧めします。

このように、事業計画書には数字を作成する際のポイントがいくつも散りばめられており、なかなか一人で作成するのは困難かと思います。税理士等で協力してくれるパートナーがいると思いますが、ただ作成すればいいのではなく、いかに金融機関の目線で事業計画書を作成できるかが大切になってきますので、この4つのポイントを上手く抑えられるような計画書を作成してください。